システマ・ユースプログラム by ヴラディミア・ヴァシリエフ
November 30, 2010 by Vladimir Vasiliev若者たちにシステマをどのように伝えるべきか、そしてどのようなメリットがあるのかについて、ヴラディミアが詳しく述べています。
「システマ・ユースプログラム~システマは青春時代にどんな恩恵をもたらすか?~」 by ヴラディミア・ヴァシリエフ
システマとは何でしょう? 古のロシアを源流とし、護身術の訓練法でありながら戦士として生きる道でもある、ユニークかつ多様で完全な方法です。本当の戦士は自分と他者を守るための技術に長け、健康的かつパワフルで、心の戦いを有利にすすめます。自尊心や攻撃性、恐怖を、人間性や勇気、強さへと変える能力を持つのです。
2010年、テキサスのオースティンにて、ある経験豊かな警察官は仕事の最中に激しい手の震えに見舞われていました。彼は容疑者に手錠をかける際、手が激しく振動してしまうので、パートナーは彼に医療的な対処が必要であると真剣に説得したのです。ですが彼は、システマのトレーニングでストレスを解消する呼吸法とリラックス法を学ぶことで、震えを完全に克服することができたのです。その警官は新たな落ち着きと明確さとともに仕事が出来るようになりました。この素晴らしさを彼は自分のインストラクターと共有したのです。
2001年、ニューヨークのマンハッタンでは、「911」がありました。倒壊するビルから数ブロック離れたところにある高校はパニックに満ちました。生徒達は叫び、でたらめに走りまわりました。ある18歳の少年は、クラスで学んだシステマのブリージングをしました。すると突然、落ち着きを取り戻すことができ、どこにどうすれば一緒にいる何人かの生徒達を安全な方に導くことが出来るのか見出すことができたのです。それに驚いた彼は。トロントにあるシステマ本部に電話をかけて詳細を共有してくれました。
このような例は、システマの練習においてたくさんあります。
「システマ」は、ロシア語で「システム」を意味します。それは人間に対する完全にして全てを含むアプローチであり、このスタイルの護身術と健康法は精神と身体のあらゆる部位に影響を与えます。
私たちの目指すところは非破壊です。多くの武道がそれを要求しますが、システマは現在知られている中では唯一、身体的にも精神的にもその要求を充分に満たすことが出来る武術です。
まず身体的な側面を見てください。システマには関節を破壊するようなストライクも、キックも、ブロックも投げ技もありません。システマの生徒が学ぶ際、その身体は関節や筋肉が捻られたり、過度な負荷をかけられたりすることなく、常にバイオメカニック的にも自然な姿勢に保たれます。映画で観るようなドラマチックなハイキックやスピン、関節を割るようなストレッチ、そしてジャンプなどは実際の戦いにおいては役に立ちません。それどころか筋骨格系に取り返しの付かないダメージを与えてしまいます。システマのあらゆる動きは、全ての関節と身体の各部分を自然な形に保ち、バランスを取りながら行われます。シンプルで精妙で、だからこそパワフルなのです。
システマにおける基礎のもう一つの側面にブレスワークがあります。なぜこれがシステマの核となるのでしょう? どんなにジムで強くても、実際の対立の場において多くの人が一瞬フリーズします。精神面と肉体面においてフリーズするのです。たいてい、攻撃する側はこの瞬間、主導権を取っています。私たちが恐怖による支配から解放されるための唯一の確実な方法は、ブリージングなのです。
システマの生徒は特別な呼吸のエクササイズを練習することで、何をしている時も連続した途切れることのないブリージングをすることを学びます。連続し、コントロールされたブリージングは留まることのない動きと思考をもたらし、それによってその人をサバイブさせるのです。さらにストレスフルな出来事があった後に、ストレスの影響や負傷の影響を解消する助けにもなります。ブレスワークはあらゆるシステマのクラスで行われています。これらの特殊なトレーニングは、筋肉の動きと様々なパターンの呼吸を組み合わせることで、優れた効果を生み出します。呼吸器系は直接循環器系と繋がっており、そして全ての血管は神経末端と密接に繋がっています。だからブレスワークは全ての神経系を静かにし、安定させ癒す効果があるのです。システマのクラスにおいてはどんな年齢の人々も落ち着きを手に入れ、穏やかで強い人間になります。もし何か予期しないことが起きても彼らはパニックや怒りに駆られたり、ストレスによるトラウマを抱え込んだりしないでしょう。もし、彼らが迅速かつ静かに、断固たる意思をもって行動をしなくてはならない時も、自分にも周囲の誰かにも不要なダメージをもたらすことはありません。
システマにおいて構えは一切ありません。なぜなら意図されたあらゆる構えは、恐怖によってもたらされます。構えによって身体は、たった一つの方向からの攻撃に対してのみ備えます。これは複数の敵や予期せぬ武器を用いた攻撃に対しては有害にすらなり得ます。
構えは姿勢を固定することです。身体は硬く緊張し、効果的な反応が遅くなってしまいます。
システマの生徒は、代わりに自然で自発的な動きを学びます。
私たちのクラスに事前のリハーサルなどありません。前もって準備できる攻撃などあり得ません。実際の対立と同じように行なうのです。生徒達は本当の自由と動きを学び、立っていても、倒れていても、膝立ちでも、転がっていても、走っていても、攻撃をしかける時も、避ける時も、倒れながら武器を使うときも、手や足を片方だけ使うよう制限された時であっても、快適さを保ちます。彼らは即座にいくつもの考えを適用することと、脅威をコントロールするための無理のない動きによって、予測できない攻撃に備えているのです。
システマのトレーニングにおける、もう一つの原則は緊張の解消です。筋肉、内臓、そして精神的な緊張の全てです。クラスで行われるあらゆる練習や動作は正しい速度、自然な姿勢、そして適切な呼吸とともに行われます。子供にはプレッシャーのない最高の状態にあります。それは内的な緊張がないからです。緊張は護身術の効果的な動きを壊すばかりか、人の健康を心身両面において台無しにしてしまいます。私たちは普段の生活において緊張のコントロールを放棄してしまいがちです。システマにおいてはこれこそが焦点となるのです。この結果は驚異的です。クラスの終わりにはみな、精力に満ち、緊張がなく、静かで平和的で幸せなエネルギーに溢れています。
システマにはマッサージやリラックス法、内臓に穏やかなプレッシャーを与えるものなど、ユニークな練習があります。生徒達はインストラクターの厳密な監修のもとで、パートナーや自分自身にそれを活用する方法を学びます。これは健康な生活を獲得する上で、最も価値のあるスキルと言えます。自分自身、もしくは他人のストレス、病気、負傷の影響を癒し、運動をするときの潜在能力や行動面、感情面における落ち着きを2倍にも3倍にも高めます。
緊張の緩和に関連して、システマにはもう一つ欠かせない側面があります。それは攻撃性の否定です。世の中のあらゆる規律は、攻撃性をコントロールするように説いていますが、システマではそれをさらに深めます。簡単なところでは、それは気立ての良い子どもを作り出します。ではいったい何が攻撃性を生み出すのでしょうか? その答えは恐怖です。
攻撃性は、私たちの内面にある恐怖を覆い隠そうとするものです。言うまでもなく、攻撃性は子供の心と身体を破壊し、対立において相手に過度のダメージを与える原因ともなります。システマは本質に働きかけます。恐怖がどのように起こり、それがどのような働きをするのかを子供たちが理解するのを、直接的に助けるのです。システマの生徒達は打撃を受けるのを恐れません。なぜなら、身体から衝撃を取り除く方法を知っているからです。また、倒れることも恐れません。それは快適なローリングや倒れ方をするからです。それにミスをも恐れません。彼らはそこからどうやって学ぶかを知っているからです。競いあうプレッシャーもないので、恐怖は皆無なのです。
システマは分析力を高める上で最高のトレーニングの一つです。クラスにおける遊びと真剣な動作の両方を通じて、子供たちは常にパートナーと自分自身の動きを分析するのです。暗記するべきレディメイドの動きもないので、子供たちは常に自分の長所と短所を自覚しています。
彼は自身が持つ最大の資産、つまり自分自身に向かい合い、そして挑みます。これは間違いなく、人生において価値のあるスキルの一つです。それは本当の自信を若者たちにもたらします。私たちは充分気をつけながら、子供たちの自信を高めていかねばなりません。自信はしばしば賞賛やランキング、優越感に基づいています。そういった自信は偽物であり、危険です。本当の自信とは内面から生まれ、人間性の礎となり、正しい道を歩ませるのです。
古来から現代までの戦闘技術に基づいているシステマは、その全てが実践的です。私たちはユニフォームを着ることはありません。なぜなら私たちはユニフォームを着て街を歩くことはないからです。暗記するパターンもありません。なぜなら本当の対立において決して助けてくれることはないからです。自然で自発的な動きは人生を芸術的に決して退屈することはありません。あらゆるクラスにおいて新しい動きと要素があり、これが挑戦と興味を保ち続けるのです。
システマが心理面にもたらす恩恵には、多大なものがあります。システマには色別の帯もランク付けもありません。なぜならそれは不健康な争いやプライドを育てるからです。私たちが、表面的なこと、無駄なこと、破壊的なことに子供を集中させたくないと望むのは明らかなことです。非競争は友情や助け合いの心を開発し、トレーニングの目的を人格の向上へとシフトさせます。必ずしも表面化する必要がない内面的なこと、例えば短気、怠惰、嫉妬、エゴなどを克服することを達成しようとするのです。不要な特質を圧倒することで築かれたクオリティは永続的であり、本当です。
システマは、特に様々な速度の動作とブレスワークを組み合わせた強化トレーニングを提供します。これらのエクササイズは身体を適切な状態にデザインし、相当な耐久性を作り上げます。加えてシステマの練習は若者たちに、悪い感情を防ぎ除去することを教えます。彼らは恐怖や焦り、自己憐憫などをコントロールするための簡単で、信頼できる方法を学ぶのです。
2007年、システマ創始者のミカエル・リャブコとヴラディミア・ヴァシリエフはマンハッタンにある国連本部でロシアンマーシャルアーツについて解説し、披露するために個人的に招待されました。プレゼンテーションは大きな成功を収め、システマは「現代においてもっとも人間的な武術である」と認められました。
その創始期においてシステマは歳をとっても健やかで活発で、自らの身を守る術に熟練した人々を作り上げるために構築されました。システマのトレーニングは特別な若者を産み出します。システマを真剣に学んだ人々は大いなる健康を手にすることができるため、年老いても社会の重荷になることはないことが保証されています。彼らはストレスや危険に対しても動ずることなく、専門的な方法で対処することができるでしょう。どうすれば怪我や病気を避けることが出来るかを知っているのです。そして彼らは強い家族を持ち、良い仕事をし、所属する共同体の中で善の側に立つのです。若者に対するあらゆる教育プログラムにおいて、これは究極のゴールです。虚構とマウスのクリックに満ちたこの時代において、私たちは商業目的でない、リアルで完全で、自然で、生きたプログラムを必要としているのです。それこそが“システマ”です。
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ミカエル達が国連本部に招待された時のデモの模様はこちら↓です。実はこの時、北川文インストラクターもお祝いに駆けつけ、この場に同席しています。この後、NYのシステマジム「Fight House」でセミナーが行われたのですが、その時の模様はDVD「Stick Seminar」に収録されてますので、よかったら見てみてください。「私みたいに強い男になりたかったら、これをやりなさい」と言ってミカエルが教えてくれたというとっておきのエクササイズも紹介されています。